あいみょん、強い想いが導いた『ドルフィン・アパート』の大成功 過去最長ツアー、ファイナル公演を振り返る

5月29日、あいみょんが『AIMYON TOUR 2024-25 “ドルフィン・アパート” -ADDITIONAL SHOW-』のファイナルとなる埼玉公演をさいたまスーパーアリーナで開催した。
昨年9月にアルバム『猫にジェラシー』をリリースし、同月28日からスタートしたツアー『ドルフィン・アパート』は、あいみょんにとって過去最長となる全42本のロングツアー。12月8日の広島・グリーンアリーナではかねてよりファンを公言していた『映画ドラえもん のび太の絵世界物語』の主題歌を担当することが発表され、今年3月5日に主題歌と挿入歌を含む両A面シングル『スケッチ / 君の夢を聞きながら、僕は笑えるアイデアを!』をリリース。翌3月6日に記念すべき30歳の誕生日を迎え、ひさびさの海外公演かつ30歳初ライブとして台北・ソウル公演を行い、さらには地元の兵庫県ではツアー日程において最多の計6回公演を行うなど、非常にメモリアルなツアーとなった。

僕はこのツアーを3回観ていて、初日の昨年9月28日千葉・LaLa arena TOKYO-BAY、ツアー本編ファイナルの今年2月13日大阪・大阪城ホール、そして追加公演ファイナルのさいたまスーパーアリーナだったのだが、回を重ねるごとにショーとしての完成度が上がり、ツアーファイナルが間違いなくベスト。シンガーソングライターというアイデンティティはそのままに、ライブアーティストとして充実期を迎えているあいみょんのパフォーマンスを堪能することができた。


『ドルフィン・アパート』最大の特徴は、客席の真ん中に伸びる長い花道。ステージの左右だけでなく、中央に花道があることによって、アリーナ規模の会場でもあいみょんとオーディエンスの距離が近く感じられ、会場全体に親密な雰囲気を作り出していたのは大きなポイントだった。ツアー本編では1曲目の「リズム64」でいきなりサプライズ的に花道から登場し、続く「ラッキーカラー」で場内がクラップに包まれて、すぐに一体感を作り出す。ツアー初日は花道の使い方に関してまだ試行錯誤の部分もあったかもしれないが、ファイナルでは花道を自由に使ってオーディエンスとコミュニケーションをとる様子が印象的だった。


あいみょんといえばやはりアコギを持ちながら歌うイメージが強いが、『ドルフィン・アパート』では左右と中央の花道を行き来することが多いため、これまで以上にハンドマイクで歌う場面が多く、それがパフォーマーとしての、シンガーとしての成長を強く感じさせた。毎回2時間半におよぶ濃密なライブを行いながら、終盤になっても声の伸びやかさが衰えることなく、派手なアクションをしても音程がブレない、その力量はあらためて特筆すべきものがある。“表現力”という意味では、特にグッときたのがバラードナンバーで、アコギを置いてスタンドマイクで歌った「朝が嫌い」の切実さと解放の感覚、ハンドマイクで歌われた「スケッチ」の包み込むような優しさは、シンガーとしてのスケールの大きさを証明するものだった。


この素晴らしいパフォーマンスの背景には、サポートメンバーとの信頼関係も欠かすことができないもので、『ドルフィン・アパート』では“バンド”としてのケミストリーも強く感じられた。シンガーソングライターにとって、「どんなサポートメンバーがまわりを固めているのか」はアーティスト性を象徴する部分でもあるが、あいみょんから見て兄的な世代のqurosawa(Gt)、井嶋啓介(Ba)、伊吹文裕(Dr)、山本健太(Key)は実力とフレッシュさを兼ね備え、八橋義幸(Gt)と朝倉真司(Per)という経験豊富なふたりが両脇を固めるという6人のバランスが抜群で、長くこのメンバーでライブを重ねてきたことにより、今ではどこか家族的なあたたかみも感じられる。


サビでメンバーそれぞれがコーラスを担当する「駅前喫茶ポプラ」の微笑ましさに対し、ラストで伊吹のプレイをフィーチャーした「炎曜日」や、qurosawaと八橋のギターソロをフィーチャーした「マトリョーシカ」などは、スリリングなアンサンブルが鳥肌もの。花道とともに『ドルフィン・アパート』の特徴であるセンターステージのアコースティックコーナーでは、ツアー本編が井嶋、山本、朝倉、追加公演がqurosawa、伊吹、八橋という組み合わせで、ここでのリラックスしたメンバー同士のやりとりも楽しい。花道を駆け回るあいみょんやステージ上のメンバーをドローンが追いかけて、さまざまな角度からスクリーンに映し出した「私に見せてよ」のわちゃわちゃした雰囲気はまさに“バンド”的で、今回のツアーを象徴する一場面だったように思う。

そしてもうひとつ、あいみょんのライブの特徴といえば、MCでのオーディエンスとのやりとりだ。まるでもともとよく知った友達かのようにステージ近くのオーディエンスに話しかけ会話をするシーンはもはや見慣れたものだし、こちらもあいみょんのライブではすっかりお馴染みになった客席をズームする双眼鏡を使って、会場全体のオーディエンスと軽妙なやり取りをするのがとにかく楽しい。この日も「誰ときたの?」「誕生日の人いる?」といったあいみょんからの問いかけに熱量高い反応が見られたが、それにしても性別も年齢も問わないオーディエンスの幅広さにはあらためて驚かされる。途中で世代を聞く場面もあったが、満遍なく各世代が散らばりつつ、特に反応が大きかったのが20代女性と50代男性だったのは、あいみょんのキャラクターをよく表していた。

また、「私のライブに初めてきた人?」という問いかけに、大きなリアクションがあったのも非常に印象的だった。もちろん、インディーズ時代からあいみょんを追いかけ続けている人もいれば、「マリーゴールド」で知った人、「裸の心」で知った人、いろんな人がいることだろう。とはいえ、活動が長くなればなるほど、ある程度ファンが固まってくるのは普通のことだが、この数年でも新しいファンが増え続けているのはとても健康的なことだ。メジャーデビュータイミングがちょうど日本におけるストリーミングサービスの黎明期で、かつては「ストリーミングの女王」と呼ばれたこともあったが、時代にカテゴライズされることなく、「懐かしく、でも新しい」というアーティスト像を更新し続けているのも、やはりあいみょんならではだと言える。
