XGは“海外人気獲得”を同時に成功させた稀有な例 東京ドーム公演のチケット完売――女性からの支持と独自のコンセプトが鍵に
XGの勢いが加速する一方だ。
日本出身の7人の女性からなるこのグループが正式にデビューしたのは、2022年3月のこと。それからわずか3年ほどで米・ビルボードのメインチャート「Billboard 200」にランクインを果たし、昨年はイギリスのOVO Arena Wembleyをはじめとする世界的に有名な大型会場で単独公演を行い、先月はアメリカの野外音楽フェスティバル『Coachella Valley Music and Arts Festival 2025』(『コーチェラ』)のステージを成功裏に成し遂げている。
その人気ぶりは海外に限った話ではない。日本でもコンサートツアーを実施すれば、いずれの会場もソールドアウトに。大御所アーティストのライブではチケットの争奪戦がよく話題に上がるが、彼女たちの場合も同様で、入手は至難の技。本日5月14日に東京ドームで開催する公演『XG 1st WORLD TOUR "The first HOWL" FINAL Landing at TOKYO DOME』も、早々にすべての席が埋まったと聞く。
日本人では坂本九を筆頭に、イエロー・マジック・オーケストラ(YMO)、きゃりーぱみゅぱみゅ、BABYMETAL、YOASOBI、Adoなどが国境を越えた人気を獲得しているが、XGの場合は過去のどのパターンとも違った流れで世界的な名声を手に入れているのが非常に興味深い。
人種や国籍、性差を超える存在に――鍵を握る女性層からの支持
彼女たちを語る時に欠かせないキーワードが、“X-POP”である。J-POPでもK-POPでもない、自分たちならではのスタイルを表すこの言葉は、メンバーを選考する段階からベースにあったと言われる。それは音楽のみならず、人種や国籍、性差を超えたもので、過去に海外進出した先達がアジア風の味わいを活かしたサウンドで受けていた流れとは異なるものだ。
XGは2022年初頭のプレデビュー期、詳細なプロフィールを一切明かさなかった。
YouTubeをメインにメンバーを次々と紹介し、それぞれのテクニカルな面を小出しに見せていった。メディアで大々的に宣伝することは一切なし。しかしながら、その謎めいた始まりが功を奏して国内で人気を急速に広めていった。
その当時の支持者の中心となったのは、女性たちだ。昨今の女性グループシーンのトレンドのひとつでもある“ガールクラッシュ”=“女性が憧れる女性”の香りを漂わせながら、自らの声と身体のみで勝負していく潔さがジャストフィットしたのだろう。日本各地で開催されるカバーダンスコンテストでは、2023年頃から若い女性たちが積極的にXGの曲をチョイスするケースが急増している。こうした盛り上がりは海外でもほぼ同じ時期に起こり、XGのオリジナルソングを外国人が“踊ってみた”、“聴いてみた”動画が次々と再生回数を上げている。
坊主も話題に、既存ジャンルのミックスから生まれた独自のスタイルとビジュアル
では、なぜ彼女たちだけが注目されたのか――。そう考える人はきっと多いに違いない。
その疑問を解く手掛かりとなるのが、XGのエグゼクティブプロデューサーであるJAKOPS(SIMON)の次のコメントである。
「XGはK-POPなのかJ-POPなのか、正直これについてもかなり悩みました。私たちのグループ(XG)が全員日本人グループであること、韓国で番組活動やコンテンツ制作はしていますが、音楽でのメッセージは私たちがグローバルに向けて、英語で私たちのサウンドを表現しています。さまざまな国籍のチームのメンバーの方々と一緒にガールズグループアーティストとしての新しい方向性を提示しようとしていたビジョンがあって、『私たちの音楽を必ずしもひとつのカテゴリーに定義しなければならないのだろうか?』という終わりのない悩みをずっと抱えてきたように思います」(「XG Documentary Series ‘XTRA XTRA’ EP XX」より)
前述した通り、XGは人種や国籍、性差を超えようと孤軍奮闘している。だからといって、パーフェクトにやろうとはせずに、影響を受けたさまざまな要素がサウンドやパフォーマンス、ビジュアルから見え隠れするのが、このグループを唯一無二の存在にしているように思う。
最もわかりやすい例が、「WOKE UP」(2024年5月リリース)だ。シンプルなトラックのリフレインとアグレッシブなラップはHIPHOPの雛型のひとつとも言えるが、エスニックな笛の響きでアジア的な雰囲気も漂わせることにも成功。そこに自分らしく堂々と生きる喜びを込めた歌詞、一糸乱れぬダンスといったK-POPの美学を注ぎ込み、ほかではなかなか味わえない世界を構築している。
同曲の仕上がりは、決してポップではない。にもかかわらず、Billboard JAPANチャート「JAPAN Hot 100」では初登場5位となり、“世界で聴かれている日本の楽曲”をランキングとした「Global Japan Songs Excl. Japan」でも初登場3位に。COCONAがMVのなかで自身の髪の毛をバリカンで剃って坊主になるなど、メンバーの斬新なビジュアルも追い風になったようだ。魔女、学校の制服、民族衣装を連想させるコスチューム、「本当の美しさとは何か?」と問いかけるようなメイクやヘアスタイル。こうした異質なものを違和感なくミックスするセンスは、驚嘆に値する。