『蓮ノ空』夢を追いかけた3年間の軌跡がここにある それぞれの想いが詰まった“102期卒業アルバム”の物語
2025年6月4日、『ラブライブ!蓮ノ空女学院スクールアイドルクラブ』(以下、『蓮ノ空』)から、『102nd Graduation Album ~Star Sign Memories~ Otomune Kozue』『Yugiri Tsuzuri』『Fujishima Megumi』(以下、『乙宗梢盤』、『夕霧綴理盤』、『藤島慈盤』)が3枚同時リリースされた。既存曲15曲に加え、102期生の乙宗梢、夕霧綴理、藤島慈の新規ソロ曲が各1曲ずつ収録されている。
『ラブライブ!』の歴史において、ソロアルバムの存在は珍しくないが、今作がそれらと明確に異なる点は、102期生の”卒業”をテーマに制作されていることだろう。“卒業”というテーマを背負ったことで、新曲だけでなく、既存曲15曲にも今までとは異なる文脈が与えられている。それにより、一人で歌っている楽曲をかき集めたレコードではなく、一曲一曲が彼女たちの三年間の軌跡として目の前に浮かぶアルバムとして完成しているのだ。
既存曲が、ユニット曲や全体曲ではなく、一人の曲として成立している点も秀逸だ。たとえば、『乙宗梢盤』では「Special Thanks」が印象的だろう。原盤からブラスバンドをより前に押し出しつつ、間奏のギターソロをカットしていることで、同じ楽曲でありながら異なるイメージをもたらしている。これにより、日野下花帆の書いた歌詞すら、たしかに乙宗梢のものとして彼女の中に刻まれているのだと感じさせてくれる。それは、自分の流した涙が、花帆の運命を変えてしまったと感じていた梢が、ついぞ自分の罪を口にせず「ありがとう」だけ残したことからもわかるだろう。
『夕霧綴理盤』なら「Sparkly Spot」の、今まで後輩へ託していた〈「決めるのは自分だ。」〉を綴理が歌っている点は外せない。ドール+オーケストラの造語をユニット名=DOLLCHESTRAとして背負った彼女たちが、決して吊られたドールではないと世界へ叫ぶパート。だが、マリオネットだと自認していた1年生の綴理がそれを歌えば、人形によるせめてもの抵抗、皮肉にも感じられるだろう。しかし、自分で道を選び、新しい夢へ進み始めた今、「夕霧綴理は人形でない」と確信を持って受け取れる。今ならば、儚げな歌声から、その奥にある情熱も確かに感じられるのではないだろうか。
『藤島慈盤』では、すべての楽曲が見事に“めぐちゃん色”へ染められている。個人的に原曲とソロ版で評価が大きく変わったのが、このアルバムだ。みらくらぱーく!と言えばネットスラングを巧みに操った、冷静に見るとエモーショナルな歌詞を、ポップに届けてくれる楽曲が印象的。これが慈ソロとなると、エモさがより強調されている。特に「みらくりえーしょん」「ファンファーレ!!!」では、明確に世界へ羽ばたいた“めぐちゃん”の曲としてのチューニングが施されていた。詳しくは、ぜひアルバムを聴いて確かめてほしい。ただ一つ言えるのは、今も世界中を夢中にするため、海外で修行する彼女に想いを馳せながら聴いてほしいアルバム、ということだ。
ほかにも、梢ソロの「眩耀夜行」、綴理ソロの「レディバグ」、慈ソロの「全方位キュン♡」など、必聴の曲を挙げ始めればキリがない。このように今まで擦り切れるほど聴いたはずの曲たちが、それぞれのパーソナルをより深掘りするソロ曲として十分に機能し、各アルバムのテーマを確立させるのに至っている。
『乙宗梢盤』では、いつも夢が叶わない夢を見ていた、自罰的な彼女が信じられる仲間と出会い、少しだけ自分のことを好きになれた3年間。『夕霧綴理盤』では、時間に頓着せず生きていた少女が、過ぎ去る時間に恐怖を覚えるほどの幸せに出会いながら、時計の針が進むことを受け入れ未来へ進んでいくまでの成長。『藤島慈盤』では、めぐちゃんがこれからも変わらずめぐちゃんであり続けるため獲得した変化と、めぐ党(藤島ファンの呼称)へ向けた不変の愛を感じられるだろう。