S.A.R.のユニークさを物語ったLIQUIDROOMワンマン スロウなグルーヴのみでフロアを踊らせるライブの興奮

S.A.R. LIQUIDROOMワンマンレポ

 S.A.R.が5月23日、東京・LIQUIDROOMにて、メジャー1st EP『202』のリリースを記念した東阪ツアー『202:traveling without moving』のファイナル公演を行った。これまでで最大キャパでのワンマンライブだが、会場は見事に満員。開演前からフロアは心地よい熱気に包まれている。

 メンバー5人がステージ上に登場し(Attieは体調不良のため欠席)、『202』の冒頭を飾る「Side by Side」を奏で始めると、すぐにフロアも揺れる。「Strawberry fields」、ひと際BPMの遅い「Clouds」に「pool」、音源ではShing02を客演に迎えた「New Wheels (feat. Shing02)」と続くが、客席のダンスが途切れることはない。音源以上に、ライブでmay_changが叩き出すキレッキレの生ブレイクビーツはこの上なくグルーヴィで、聴く側のカラダも自然と揺れる。

S.A.R.ライブ写真(撮影=fukumaru)
santa
S.A.R.ライブ写真(撮影=fukumaru)
Imu Sam
S.A.R.ライブ写真(撮影=fukumaru)
Eno
S.A.R.ライブ写真(撮影=fukumaru)
Taro
S.A.R.ライブ写真(撮影=fukumaru)
may_chang

 S.A.R.の音楽のユニークさは、冒頭の5曲だけでも十二分に発揮されていた。とにかくテンポ。ほとんどがBPM80~90台の曲しか演らないなんて。普通は間が持たないし、演じ手側も飽きてしまう。BPM80~90の曲を揃えた『Brown Sugar』で全世界をアッと言わせたディアンジェロも、次作『Voodoo』では多様なテンポの曲で新展開を見せた。しかしS.A.R.は、スロウなグルーヴだけで、フロアをノリノリにしてしまう。先述したmay_changのドラムスに限らず、ソウルフルとしか言いようがないTaroのキーボードも、時に爆裂して極上のアクセントとなるImu Samのギターも、ボトムを支えるEnoのベースも、トラップを通過してきた彼らのタイム感はとてもオリジナルだ。それが合わさることで「これしかない」というグルーヴを生み出しているように聴こえる。このメンバーが集ったのは必然だったのだろう。

S.A.R.ライブ写真(撮影=fukumaru)

S.A.R.ライブ写真(撮影=fukumaru)

S.A.R.ライブ写真(撮影=fukumaru)

 そして、S.A.R.の真に唯一無二なグルーヴは、santaのこれも唯一無二なボーカルあってのもの。santaのほぼ全てファルセットによる、日本語・英語といった言語の違いや言葉の意味に捉われない唱法はもう、発明と言っていい。さらに、santaが時折聴かせるラップと、Imu Samのラップも、santaのファルセットを用いた歌とのコントラストがあまりに鮮やかで聴く者を飽きさせない。S.A.R.には突出したフロントマンがふたりもいる、それはもうブレイクして当然だ。

S.A.R.ライブ写真(撮影=fukumaru)

S.A.R.ライブ写真(撮影=fukumaru)

 この日集った満員のファンにも触れないわけにはいかない。少なくとも2000年代までは、BPM80~90台の曲にグルーヴを感じノリ続けられる人は少なかった。ディアンジェロに続いて登場したルイス・テイラーといった才人たちがS.A.R.に先駆けてスロウグルーヴで魅せようとしたが、彼らはあまりに早すぎた。また、ほぼ全編ファルセットの男性ボーカルを楽しめるという音楽ファンもかつては少なかった。かの山下達郎は、ファルセットで歌うと観客に不思議がられることも多かったと言う。聴く側の進化があったから、S.A.R.のライブは盛り上がる。終盤に披露された「Uptown」で巻き起こったコール&レスポンスは、ダニー・ハサウェイ『Live』の会場の空気感を思い起こさせるもので(ライブ評として最高の褒め言葉です)、驚きとともに感激してしまった。

S.A.R.ライブ写真(撮影=fukumaru)

S.A.R.ライブ写真(撮影=fukumaru)

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